#Over the sky -青空-
 
 
 
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   「じゃぁ、優介は…」
「しんじゃわないもん!優介君もさやかも。だって、昨日だってすごく元気だったし…」
俺だって、そう思いたかった。
だって、俺を引っ張って教室抜け出して山へ連れて行けるくらい、それくらい元気だったんだから…
うそ話だ。
余計な、うそ話なんだ…
「あっ!」
がしっ!
突然走り出そうとした俺を、女の子は間一髪で繋ぎ止めた。
「行ったって、意味無いよ…」
「でもっ!」
俺は再度、女の子の手を振り解く。
「駄目だってばぁっ!」
深夜の静まり返った待合室に女の子の叫び声が響き渡る。
それは何処までも深く響き渡って、俺の頭の仲間で突き刺さり、
そして頭の中で暫く止まない位に反響していた。
受付を走り抜けて。
足が床を叩き付ける音にいちいち付きまとわれて、気持ちをぐちゃぐちゃにかき回される。
錯乱の中、あちこち走り回って、
そして、『手術中』のランプの消えた、大きな扉の行き止まりで足を止めた。
同時に扉は開いて、担架に乗せられた少年の体が運ばれる。
担架を運ぶ大人が、俺の体を押しのけた。
「何でこんなところに子供がいるんだっ!」
取り囲む大人たちの隙間から、一瞬だけど、確かに優介の小さくて無残な体があった。
顔中が…傷だらけで…あちこちにガーゼを施してあって…
いつの事だ…
いつ…
「…までも寝てないの、ほら、起きなさいって!」
「んぇ?」
「まったく、隠れて青春モードに突入してるんじゃないわよ…さやちゃんも意外に大胆ね」
「だって…ちょっとやってみたくて…」
目前のワイシャツの内側から覗くと、ブラが見えた…
頭に、スカートの布越しで太ももの柔らかな感触がある。
「なぁ…ここは何処だ?」
「男なら誰でも夢見るような場所よっ!」
なぜが混乱気味の美雪さんに突っ込まれる。
反対側を向くと、彩香の足が、椅子の向こうで伸びている。
上を向くと、横から彩香の顔が覗き込んでいる。
「はぁ〜…なんか幸せです…」
「彩香…」
「何ですか?」
「あの時どうしてお前まで病院に居たんだ?」
「え?…」
いつ?と言った顔をしている。
「あー、何でもないや…」
「優ちゃん、あと何分?」
「五分だよ。ちょうど。」
ちっ!もちっと早く目が覚めてくれればよかった…
「先輩、そろそろおきてくれないと動けないじゃないですか…」
「あと五分だけ…」
「あ、じゃぁ五分後には他人ですね…」
俺は素早く重い頭を持ち上げて解けた靴紐を結びにかかった。
「憲吾、なんか弱み握られてるのか?」
優介には『他人』と言う言葉とは無縁なんだろう。
「優介君!どうして俺の所に先に来ないんだよ…」
突然横から、背の高い男の人が優介を呼んだ。
「あ、達矢さん…」
「こんな所で一時間以上も足止め食って…先に俺の所に来てれば、
そしたら待合も関係なしに検査を始められたって言うのに…」
「あ、そういえばそんな事言われてた気が…」
「はぁ…お陰でただでさえギッシリの予定がさらに過密スケジュールになったぞ。
芸能人張りに。」
「ごめん。忘れてた。」
「…」
「…」
「…」
「…」
四人の冷たい視線が優介の急所を確実に突いた。
優介は魂を残して再起不能になった。
「わ、悪い…何もそこまでぶちのめされなくても…」
「みゆちんのあんな目、初めてみた…」
「まったく、誰かさんらのお気楽青春パワーは炸裂するし、
何処ぞのきゃつはいつものボケップリをふんだんにぶっ放してくれるし…」
美雪さんだけ混乱がたたって言動がおかしい.
「じゃぁとりあえず、四階に行って脳波の検査な.」
俺は先生から渡された予定表(カンペ)を確認する.
確かに一行目には「四階:脳波検査室」と書かれている。
とりあえず美雪さんも調べてもらったほうがいい気がする.
四階にはまだ電気すら点いていなかった.
検査室の扉はまるでここから戦車でも出てくるかもしれないくらい分厚く構えてあって、
扉の上のランプが点灯しだした。
「じゃぁ、ちゃっちゃっと済ますから、適当にそこらへんの椅子に座ってて.」
達矢さんはそういい残すと、しきりに「注射だけは…」と連呼する優介を引っ張って、扉の中に入っていった.
ウイ〜ン…ガコン!
ゆっくり閉まる自動扉は、いきなり閉まる直前で激しく勢いがました.
「なるほど、挟まったら救急病棟行きだな.」
逝くかもしれない.
「縁起でもない事言わないで下さい!病院なんだから…」
「す、すいません…」
彩香に怒られた.
美雪さんはどこにハマったのか、笑いを堪えている.
改めて、赤色に点灯していたランプが緑色に変わった.
「あいつ…」
やっぱりそれが、優介の病気の重大さを露呈しているように見えてしょうがない.
「おれ、ちょっとトイレ行って来る.」
椅子を立ち上がって、居心地のせいか平衡感覚の悪い中を歩いて、自販機を探した.
自販機があったのは、建物の隅っこの通路で、窓のある壁がひとしきり続いていた.
検査室からも、待合室からも離れた場所で、ここだけ床にカーペットが敷かれていない.
裸でオレンジ色の線の入ったリノリウムの通路に、窓からの光に照らされているのを見て、
元の平衡感覚を取り戻して落ち着く事が出来た.
「何で紙パックしかないかな…」
ジュースは全部紙パックの自販だけだった.
「しかも高いし.」
百五十円.
仕方なく適当なボタンを押して出たのを、ストローで挿した.
窓の向こうには、青い空が広がっている.
けど、肝心の青空の彼方は、窓の枠と大木山に囲われて遮られていた.
俺はストローに口をつけたまま、ベンチに座り込んだ.
青空の約束.
彼方に願った希望.
その矛盾。
すっかり忘れてた.
退院のその日に俺が優介を迎えに行った時。
『優介、飛行機雲が見えるよ!』
優介も同時に窓を見ていた.
『ねぇ、憲吾…』
『ん?』
『このままず〜と未来になって、大人になったら、僕の病気、治ってるかな・・・』
『うん。』
初めて優介が自分に病気の事を口にしたのが嬉しかった.
『変わってるかな?』
『何が?』
『この空、その時になったら、どうなってるのかな?』
『空は、ずっと空だよ。』
おかしなことを訊く奴だ、空が緑色にでもなるとか考えてるのか?
『じゃぁ、変わらないのかな・・・病気は.』
『関係ないじゃん。…もし治んなくても、俺が治してやるさ、きっと。』
『医者になるの?』
『え〜・・・こんな怖いとこに毎日居たくないな・・・』
『でも、治してくれるの?』
『うん。』
あの時見た空が、いつか時が経っても変わらない姿でありますように.
そして、俺は空に向かって、優介の病気をいつか俺が治すときが来るようにと、
今から考えると虫のいいことを彼方に願っていた.
『もう、体育にも出れるんだよ.』
『本当?じゃぁバスケやるときは誘ってやるよ』
『え〜・・・バスケやるのは怖いよ・・・だって、大人っぽいし』
『じゃぁポートボール?』
『あれはもっとやだよ、だって憲吾、俺がゴールやるときわざと顔に向かって投げるんだもん』
「先輩」
空になった紙パックを口にぶら下げたまま、彩香の方を向く.
「検査終わったのか?」
「そんなすぐには終んないですよ…」
苦笑いしたまま、彩香はベンチのもう一方の端に座った。
「なんかするか?」
「何をするって言うんですか、この状況で…」
確かに、何もする事がない。
喋る事もなく無言になる。
「そういえば、返事聞いてないですよね。」
唐突に、さやかはあの時の告白の返事の事を訊いてきた。
「うん。っていうか、もう決めなきゃいけないのか?」
今決めたら、一目惚れに近いぞ…
「人間は第一印象じゃないし…もうちょっと吟味しないと…」
「じゃぁ、返事はしてくれるんですね?」
「え?う、ああ…」
俺、墓穴掘ったのか?今…
「いつか、返事してくれるんですよね…」
「いつかなんかじゃねえ!かなら…ず…?」
反射的に怒鳴っていた俺に、彩香はびっくりした顔をしていた。
「いつかって言葉、別に変じゃないと思いますよ?」
「ああ、そうなんだけど、な…」
いつかなんて無責任な言葉は、使いたくなかった。
「なぁ。」
「はい?」
俺は彼女に関係の無い事を訊いた。
「子供の時と、変わってないよな。空って。」
「当たり前じゃないですか。緑色になる訳じゃあるまいし…」
この時点で俺の思考パターンと彩香の思考パターンが同じだという事が判明した。
「変わって欲しくないよな…」
「え?」
言ってから、俺は急に血の気が引いた。
「変な言葉か!?」
「はい。」
なぜかそこで微笑む彩香が不思議だった。
「だよな…」
俺がうなだれ込むと、なんだか落ち込む俺を彩香が励ますような雰囲気になってしまった。
「何か、力になれるといいですね。」
改めて俺の事を見直したような目をする。
Next


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