s.s.1 雨
 
 
 
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   いつしか、赤い空に暗みが射して来た頃に、更に雲が分厚くなっていた。
「ノスタルジックな空だなぁ…」
「ノスタルジックって何ですか?」
「え?いや、あ、う〜…」
実は俺もよく知らない。
病院の前を廻るロータリーの路面が少し濡れてるから、さっき一雨来たんだろうな…
「早く帰んないと、また雨来るかも。」
「大丈夫よ。タクシー代ならまだたんまりと残ってるし。」
「あ〜…俺彩香と寄り道しなきゃいけないんだ。」
「さり気なくあたしを巻き込んでますね…」
「じゃぁ僕も行く。」
たまに一人称を変える優介が名乗りをあげた。
「じゃぁ私も、自動的に付き合う事になるのね…」
結局四人で行く事になった。
俺達は二階の窓から外の様子を確認すると、とっとと病院を出る事にした。
「大丈夫かなぁ…」
「一雨来たって、どの道普通に帰っても濡れるんだから。」
「そうですね。って言うか、先輩?」
「ん?」
「病室で寝てたときから気付いてたんだけど、あたし自分でコートを着た覚えが無いんですよ、それで…」
「記憶喪失か?何なら一晩この病院にお世話になっていてててて!」
「バカ先輩のばかっ!」
つねられてしかも、二重にバカ言われた…
「何を!?俺は馬鹿だけど、バカ先輩になった覚えは…」
「馬鹿な人が先輩だからバカ先輩なんですっ!!」
「だからってバカな先輩にわざわざもう一度ばかって言う事ないだろうが…」
そんなの、一度刺して死んだ人にもう一度ぶっ刺すようなのと同じ事だぞ…
「ったく…ばかばか言いやがって…俺がコート着込んだときについでに着させてやったんだよ。」
「あ、そうなんですか。ありがとうございます。」
すげえ素直なのがむかつく…
ふとした疑問を優介が俺に訊いて来た。
「寄り道って、どこ行くの?大体見当つくけど…」
「食いもん屋だよ。」
「憲ちゃん、あたしは先輩として、あなたを買い食いに走らせる風に育てた覚えは…」
無いだろうな。育てられてないもん。
言った美雪さん本人も頭ひねって相当悩んでるし…
「美雪先輩、フィアーズですよ。」
「ああ、あそこね、そう言えばこの辺よね。」
「もちろん行きますよね?」
「そうと分かってたら、あなたたちが先に帰っても私一人で行ってるわ…」
すげえ行く気だ…
しゃべくりあいながら、さり気なく病院の玄関の、自動ドアを抜けた。
ぶわっ!!!
「うぷっ!…」
思わず体を戻されてしまう位の風が正面から激突してきた。
それはもう、さっきの病室(二階)にまで引き戻されるくらいに…
「すげえ風だな…」
言った事も風の暴音でかすんでしまう。
風の匂いが雨そのものだ。
「あ・・・都会だ…」
僅かな高台の病院の出口から、運河を越えて霧にぼやけ幻想的になったネオンの光の集まりが広がってる。
「本格的に雨降りそうだな…」
「うちらの街、山の天気は変わりやすいって言いますしね。」
「あんたら田舎もんか、さっきから…」
「美雪さん、キツイっすよそれは…」
「あ、花壇がある…」
「お、おい彩香…」
彩香は無邪気に逆方向の病院の庭まで走っていった。
「定番だな…」
まるで退院した子の定番だ…
「全く、子供なんだからもぉっ。」
美雪さんがなぜか嬉しそうに彩香に駆け寄っていく。
なぜか優介に鋭い目を飛ばしながら。
「お前と違ってえらいヒイキされたもんだな。」
「うん。よく分かってくれたよ憲吾…さすが親友だ。」
その事に関しては切実に悩んでるらしい。
「はぁ…しょうがないから、待とう…」
優介は多分美雪さんに(目で)牽制されてるから、待つんだろう。
「じゃ、俺行くから。」
「この憲吾の裏切り者めぇっ!」
「大丈夫だよ、一緒に来いって。美雪さんに近付かなければいいんだよ。」
優介ってかわいそうな奴なんだなって、ちょっぴり思った。
タクシーのロータリーの脇道をクネクネ歩いて、
病院の玄関をぐるりと廻って、建物の中道に入ると、
建物に囲まれた中庭が見えた。
「昼間の中庭じゃねえか…」
さっきは病院の建物の中から、ガラス越しに見ただけだけど、
あの時は晴れてたし、室内だから暖かかった。
けどこうして実際に近付いてみると、
雨は降るわ、やたら寒いわで、
どうせなら室内から美雪さんと彩香の様子を見守っていたい位だ。
芝が敷いてあってこんもりとやまなりに膨らんだ中庭は、
歩き道以外は全部花壇だった。
「この時期に咲く花なんてあるのか?」
咲いてる花もあるけど、殆どがまだ蕾だった。
美雪さんは咲いてる花をじっくり観察してるし、
彩香はなぜか蕾の方をじっくりと観察してる。
「朝顔か?」
「はい。…まだ、植えていてくれたんですね…」
何か感傷に浸りながら、雨露に濡れた蕾をじっくり見ている。
「さ、寒くないのか…?」
だんだん震えてきた。さすがに無茶だったかなぁ…
絶え間なく風が四方から吹いていて、コートから冷たさが染み出す。
「咲くといいですね…夏に。」
「咲くさ、さすがにお手入れに手を抜いたりはしないだろ…」
「見てみたかったなぁ…咲いてるのを。」
朝顔なんて、小学校の時に散々育てさせられた覚えがある位ポピュラーだぞ…
「でも、無理ですね…もういいですよ。行こっ。」
俺の手を引いて、花壇から離れて行く。
心なしか、無理やりあの場所から引き離されたように思えた。
「美雪さぁんっ!右斜め横に優介がいますよっ!」
「えっ!?待っててって言ったのに(目で)、優介ぇ〜!」
「けっ、憲吾っ!てめぇ!」
俺は優介の身の安全よりも面白い方を選んだ。
「フィアーズって、何処にあるんですか?」
「そりゃ、あすこだろうよ…」
さっきよりももっとハッキリしない、靄がかった都会のネオンの方を指差した。
「綺麗ですね…」
「ん?ああ、そう見える事もあるな…」
降りしきってくる雨が目前に控えてる事しか頭に無い。
「あたし、前は向こうの西入沢に住んでて、
退院したときに東文字に転校して来たんですよ。」
西入沢は都会で、東文字は田舎…
「この都会っ子めぇっ!!って、優介も昔は住んでたらしいけどな。」
「そうなんですか?」
「ああ。幼稚園の時にだけど。見慣れない奴が入って来たなってだけ覚えてる。」
「知らなかったな…それは…」
以外、といった風に優介の方を向く。
まだ花壇で格闘してるし…
もうKO寸前だけど…
突然無防備な横から突風が吹いた。
「きゃっ!」
さ、さみぃ…
けど彩香の方がもっと寒そうだ。
「女の子って、冬の間もスカートでずっと通してて脚とか寒くねえのか?」
「びっくりしたけど、不思議と寒くないです。」
そりゃそうだ。
俺の分まで充分暖まってろ。
「…え?まさか…」
「約束は約束だからな。」
彩香はコートの襟元をくつろげてコートの中を覗き込んだ。
何か微妙にえっちぃぞ…
「あ〜!!」
満面の笑みで俺を振り返った。
「先輩っ!あたしのコート着てもいいですから。」
「そしたら絶対お前が寒くなるぞ。」
「じゃぁコートの上にこれ着てもいいですか?」
「おい…」
顔の何処からか音符を浮かべて、鞄をブラブラさせながら嬉しそうに歩き出す。
ハッキリ言って引ったくりの格好の獲物だ。
「待てよ彩香、あいつらの格闘を静めるのが先…って聞いてるのか?」
「はい?」
聞いてねえよ…
「いじめっ子がいじめられっ子をいじめてるから、助けに行こう。」
「はい。もう何でもOKですよ。」
爆弾発言だ。
「大切な宝物にしますね。」
出来れば明日返して欲しい…

「どうして待っててって言ってるのに、待ってくれないのかなぁ〜?」
「いてててっ!首掛かってるよみゆちんっ!」
「理由を訊いてるのよ?」
「はい。憲吾に見つからなければ大丈夫だからっていててて!」
「私は衛兵かっ!」
似たようなもんだと思う。
「あ、憲吾!助けてくれよ、みゆちんにマジで殺される…」
「美雪さん、そろそろお遊びも終わりにして、行きますよ。」
ほとほとしょうがねえな、ってな風に言った。
「そうね。雨も降る事だし、濡れちゃわない内に用事を済ませちゃいましょう。」
こんなしっかりした人の何処にあんな鬼みたいな人格があるんだ?
「助かった…」
「さてと、優介をたっぷりと可愛がった事だし…」
SMプレイだ。
「もしかしたら家に着くまで待っててくれるかも知れないわね、この天気。」
「だといいんですけど。」
Next


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